■携帯電脳遊戯最強伝説 符咒バトラー壬生!
第6話「僕と、勝負するかい?」
2006 the reverse side of a hanging scroll : recharge
悪い夢を見ていた―――なぜか僕は新宿の真神学園にいて。
そう、そこからして、おかしな夢なんだけど。
とにかく僕はなぜか真神学園にいて、トイレの前で誰かを待っていて―――
胸騒ぎがしていた。夢だから、そこから先の記憶が曖昧だ。
僕はそこで誰かに出会った。
京一君が木刀で襲ってきたような気がする。醍醐君たちに囲まれた気もする。
どれも僕の不安を煽るような記憶だ。だけどそこで起こった事件とは違う。
違うような気がする。
真神学園のトイレの前で――――――
そうだ。女の子に会った。
いや、そうじゃない。―――龍麻。
龍麻だ。龍麻に会った。
だけどそれは龍麻じゃなくって、すごく不気味な生き物に変化していた。
僕は生命の危機を感じた。それはもう龍麻じゃなかった。
食べられると思った。食べ尽くされると思った。
だから僕は―――僕は?
そこからの記憶がない。
僕はどうなったんだろう? 食べられたのか?
そこで僕の悪夢は途切れている。
だけどそれでいい。
あれは夢だったんだ。きっとそこで目が覚めたんだ。
良かった。本当に良かった。もう何も心配はない。
何も心配せず、この川を渡ればいいんだ。
さあ、急げ───「おい、壬生! しっかりしろ! くそっ、こうなったら人工呼吸で―――」
「うわああああ!?」そこで、僕のこの幸せな夢は終わったんだ。
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携帯電脳遊戯最強伝説 符咒バトラー壬生!最終話「僕と、勝負するかい?」
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「良かった、気がついたんだな!」
見上げた先には、安堵の表情を浮かべる女装龍麻の顔があった。
「……これから先、僕は何度も思い出すと思うよ。どうしてあの時、僕はあの川を渡らなかったのだろうと……」
「何? 何を言ってるんだ? まったくもう、あんまり心配かけるなよ!」
「そんなことより、僕の前でしゃがまないでくれないか? トランクスが見えてる」
「きゃっ!? この、エッチ野郎めが!」
「……どうしてあの時、僕はあの川を渡らなかったんだろう……」
目眩がする。胃液も一刻も早い解放を求めている。
符咒の世界に渡った男の過酷な生き様が、こうも不快感を与えるものだなんて。
精神崩壊を起こした村雨。唾棄するように縁を切った鳴瀧。
今なら分かる。どうして龍麻を知るものが自分を会わせようとしなかったのか。気持ち悪いからだ。
「てめぇ……言っとくが、今のは事故だからな! 勘違いしてんじゃねぇぞ!」
「何を……何を勘違いをしろと言うんだ……?」
「少年漫画的ちょっぴりHなラブコメ展開を期待してんじゃねぇぞ!」
「しない。死んでもするもんか!」
「惚れんじゃねぇぞ!」
「いや、惚れない! 絶対に惚れない!」
「どうだかな……なんだかんだ言って、男の子はHだからな」
「いい加減にしてくれ。そんな戯言を聞くために僕は来たんじゃない」
「なんだと?」
「僕がここに来た理由は―――」そう。符咒バトラーはここで倒れるわけにはいかない。
どれほどの強敵を前にしようとも、どんなビジュアルの敵を前にしようとも、立ち止まるわけにはいかないのだ。「これで勝負をつけるためだ!」
「なっ!?」
ポケットから取り出すオニキスブラックのGBA。幾度となく辛い戦いを共にくぐり抜けてきた符咒バトラーの相棒。
歴戦の勇者、ここに現る!
「なんだ……そういうことだったのか。いいよー。相手になるよ」
対する龍麻はファミコンカラーのGBAを取り出す。
この余裕。これが最強と呼ばれる男(女?)の貫禄なのか!
「クククッ、言っておくが俺は強いぜ!」
符咒のために性別まで投げ捨てた男(女?)
友人は自分から離れ、師匠からも侮蔑され、それでも符咒で最強たらんと脇目も振らず女を磨いた。
実際のところ、女主になる必要はまるでないのだが、覚悟という意味でここまで符咒に賭けた男(女?)はいないだろう。
負けられないのは―――壬生も龍麻も同じなのだ。
「場所を変えよう……何もトイレの前で決着をつけることはない」
「そうだな。俺もムードを大事にする男は嫌いじゃないぜ。屋上に出よう。付いてきな」壬生は黙って龍麻の後に続いて行く。勝負への階段を昇るために。
「ちょっ、スカートの中覗くんじゃねぇぞ、コラ」
「誰が覗くか。くだらないこと言ってないで、さっさと昇るんだ」
「フン、クールな野郎だぜ。逆に俺が惚れちまいそうだ」
勝負の前から牽制は始まっている。
こうしてモチベーションを高めつつ、相手から冷静さをこそぎとる。
符咒バトルとは、電源を入れる前から始まっているのだ。
(ちきしょう……なんだよ、この胸のときめきは?)
だが、龍麻はちょっとマジになりかけている。
勝負を前に恋など禁物。生まれかけた淡い想いを、龍麻は胸の奥で押しつぶすことにした。
(……切ないぜ)
人を愛する気持ちを、その暖かさにも背を向けて戦場に向かう。
非情なり、符咒バトラー!
というよりも、確実に何かが狂い始めている龍麻だった。
―――屋上。「……ここでいいよな?」
向かい合う龍麻に壬生は「あぁ」とだけ頷いた。
そしてなるべく龍麻の方を見ないようにしながらケーブルを差し向ける。
「僕の母の手織りのケーブルだ。今日はこれを使わせてもらう」
「お前の母さん、すごい技術力だな」
「この戦い、母も見守っている……負けるわけにはいかないよ」
対峙する2人。
一方は、ひたすら最強を求めて闇討ち紛いのバトル繰り返してきた餓狼。
もう一方は、符咒の異世界に身を置き、生き抜いてきた黄金の龍。
勝利を得るのは―――どちらか1人!「「いざ!」」
バトルスタート!
『山の4』
『山の4』「……ふぅ」
「あいこか」先手決めの最初の札は、互いに同じカードだった。
緊張はまだ続く。たかが順番決めとはいえ、気は抜けない。「いくぞ!」
「あぁ!」『風の2』
『風の2』「くっ!」
「チィッ!」『炎の3』
『炎の3』
『水の1』
『水の1』
『雷の5』
『雷の5』「なんだって!?」
「やり直しだと!?」
同数札改めが5回続いた。
この場合、もう一度カードを配って仕切り直しとなる。
「まだまだ……このくらい、CPU戦で何度も経験したさ」
「あぁ、いくらでもめくってやるぜ!」『風の2』
『風の2』
『炎の3』
『炎の3』「くっ……!」
「だんだんイライラしてきた……どっちでもいいから、さっさと決めろ!」『雷の5』
『雷の5』「壬生! 次は俺が山を引くから、お前は水の1を引け!」
「冗談じゃない! 水の1は君が引くがいい!」『水の1』
『水の1』「ああん、もう!」
「どうなってるんだ、一体!?」
次に互いが『山の4』を引いて、仕切り直しとなる。
「僕は負けない! たかが先攻決めだとしても!」
「俺だって、お前なんかに負けるもんか!」『炎の3』
『炎の3』
『水の1』
『水の1』
『山の4』
『山の4』「雷の5!」
「雷の5!」『風の2』
『風の2』「たはー!?」
「嫌になってくるよ!」その後も何度かの仕切り直しがあった。
だが、そのたびに同数札改めばかりが繰り返される。
「ぜぇ…ぜぇ…しつこい野郎だぜ!」
「はぁ、はぁ……そっちこそ!」
緊張感に擦り切れる神経。蓄積される疲労感。
それでも2人の闘志は衰えることを知らない。
本戦とはまるっきり関係のない先手争いだが、勝利に貪欲な若獅子たちは牙を緩めることはなく―――
「いくぞ!」
「こい!」
―――その頃、校門前では。醍醐、小蒔、美里。そして紫暮、如月、霧島の激闘は続いていた。
「みんな……あれを見て!」
そしていち早く霧島を沈めた美里は、屋上を見上げて叫んだ。
「あれは壬生と……誰だ、あのごっつい女生徒は?」
紫暮の言葉に、醍醐のGBAが滑り落ちる。
「まさか……龍麻!?」
「なんだと!? どういうことだ!? 龍麻は何に目覚めたんだ!?」
「説明は後だ! 行くぞ!」
「釈然としないが……2人の勝負はもう始まっているというのだな!」
「如月クン! ボクらも行こう!」
「あぁ! 霧島君もいつまでも泣いてないで、行くぞ!」
「うぅ……京一先輩が、僕の京一先輩が徹底的に辱められた……」
「大丈夫よ。私が霧島君を介抱するから」
「いや……先輩として、そのくらいの面倒はみてやろうかな。僕が連れて行くよ」壊れかけの霧島を如月が担いで屋上へと走る。
そして、そこで見た光景とは―――「何が起こってるんだ、これは……?」
彫像の如く動かない2人がいた。
2人を結ぶのは1本のケーブルのみ。まるでその頼りない糸が2人の男を支えているようにも見える。
息を呑む6人の友人たち。だが―――
「……龍麻はどうしてあんな格好をしてるんだ?」
当然の疑問を紫暮は口にする。
だがその質問に答える者はいなかった。
「とにかく、勝負はどうなったんだ!?」
誤魔化すように醍醐が叫ぶ。それに感応するかのように2人の指先がわずかに動いた。『炎の3』
『炎の3』「まだ順番も決まってなかったのか!?」
「何やってたんだよ、2人とも!」
「よく飽きずにやってられるな!」『山の4』
『山の4』
仕切り直し。「まったく、さっさと先に進め──」
「いや、待て醍醐! 2人の様子をよく見ろ!」
「なに?」
紫暮が駆け寄ろうとした醍醐を押しとどめ、壬生と龍麻を指差した。
その2人の表情は―――
「……へへっ、これで何回目の仕切り直しだ?」
「さぁ……とっくに数えるのをやめたからね」
その壮絶な笑み。どれほどの精神力と体力を削ったのか、悲愴なまでの微笑み。
この2人は、先攻争いの時点ですでに命を削って戦っていたのだ!
「なんてことだ……どこまで負けず嫌いの2人なんだ!」
極限まで磨きぬいた符咒の技。ぎりぎりまで研ぎ澄まされたカード感覚。
ともに頂点を極めた2人は、引く札までもが同じという、余人には辿り着けぬ境地に届いた。
それはつまり―――
「……『シンクロニシティ』……」
如月がボソリと呟いたのを、皆が耳にした。
「シンクロニシティ? なんだそれは?」
「どういうこと、如月君?」
「心理学者ユングの提唱した人間の無意識に関する概念さ……人間の無意識には個人的無意識と集合的無意識というのが存在する。そしてその集合的無意識は人類にとって普遍的なもの……つまりこの意識レベルでは個人の壁もなく、言葉に寄らずとも互いの心の奥底まで分かり合えるという」
「どういうことだ? まさか、この2人はケーブルを通してそこまで分かり合えているというのか!? その領域にまで届いたからこそ、同じカードを引きつづけているというのか!?」
「さあね。うろ覚えの知識だから、僕にはなんとも」
「なぁんだ」
「だったら黙っててよ」
「如月さんなんかに期待して損しました」
「……すまない」『雷の5』
『雷の5』そんな解説にもならないギャラリーをよそに、2人はカードをめくり続ける。
もう何度も繰り返された同数札改め。めくるたびに神経が削られ、次こそは、と込めた気合は砕かれる。
だが、その気が狂いそうになるほどの作業の中で、またも2人は笑った。
「ククッ、クククッ……」
「フフフフ……」
「ど、どうしたの、2人とも!? まさかとうとう!」
「もうやめるんだ! それ以上はやっても無駄だ!」
しかしそれは皆が危惧した精神的な限界ではない。むしろそれは、2人の戦士の喜びの声。
「いいぜ……最高だ、壬生! お前はやっぱり最高の男だぜ! この俺をここまで苦しめるとはな!」
「それはそっちこそ。初めてだよ、ここまで符咒封録を楽しいと思ったのは!」
ギャラリーは息を呑んだ。こんな誰が見ても面白くもなんともない試合を、2人は楽しんでいるというのか。
しかもまだ本戦すら始まってもいないというのに!
だが、それを楽しいといった2人の表情に嘘はない。
初めて出会ったのだ。ここまで自分を苦しめる敵と。ライバルといえる―――友と!
「ハァアアアアアアッ!」
「オォオオオオッ!」
「!?」
「これはっ!?」
裂帛の氣が2人を包んだ。ゴォという風が2人を取り巻く。
巻き込まれそうになったギャラリーは互いに身を寄せ合うようにして2人を見守る。
「行くぜ、壬生!」
「来い、龍麻!」『水の1』
『水の1』「……これだけ盛り上がっておいて、次にこんな低い数字出されると、見てる方のテンションも下がりますよね」
「まったくだな」
「シッ! 黙って2人を見守ろうよ!」
「あぁ、はい」『炎の3』
『炎の3』
『風の2』
『風の2』「すごい……お互いに一歩も引かないわ」
「どうなってるんだ……いつになったら試合が始まるんだ?」『山の4』
『山の4』
仕切り直し。「ハァアアアアアアッ!」
「オォオオオオッ!」
……ぽつり。
何かが頬を叩いたような気がして醍醐は顔上げた。『水の1』
『水の1』ぽつ、ぽつ、……ザァ……!
「雨だ!」
「本当だ! 雨が降ってきたぞ!」『風の2』
『風の2』「風が……強くなってきたと思わない?」
「これは2人の氣―――じゃない! 嵐だ! 嵐が来るぞ!」
ゴォゴォと吹き巻く風が屋上を襲った。
慌てふためくギャラリーをよそに、それでも2人のバトルは止まらない!『炎の3』
『炎の3』「大変よ! 2人を止めて!」
「2人とも! 遠足は雨天中止だ! 教室に戻って普通授業だぞ!」
「駄目だ! 聞こえていない!」
「聞こえてないフリしてるんだよ、きっと!」
「いや、見ろ―――2人の足元を!」
誰もが目を疑った。
嵐の中、その2人はまるでその嵐の中心にあるかのように激しいカードめくりを続けていた。
やがてその2人の足元が地面から離れたかのように見えた。
誰もが目を疑ったのだ。だが、確かに2人の体はゆっくりと宙に浮き上がっていくのだった。『山の4』
『山の4』「ハァアアアアアアッ!」
「オォオオオオッ!」氣が2人の体から迸る。その激しい奔流が渦巻き、徐々に2人の体が浮上し―――やがてロケットのように天高く舞い上がる。
「飛んだ!?」
「なんだ!? 何が起こってるんだ!?」
「……『リニアモーターカー』……」
如月がボソリと呟いたのを、皆が耳にした。
「リニアモーターカー? なんだそれは?」
「どういうこと、如月君?」
「21世紀の超高速輸送システムとして期待の高い超伝導磁気による浮上式の乗り物さ。推進コイルに電流を流すことで強力な磁界を発生させ、その反発力と吸引力を利用することによって時速500kmという高速での走行を可能にした新型の交通システムだ」
「どういうことだ? まさか、この2人はケーブルを通してそこまで磁界を発生させているというのか!? その領域にまで届いたからこそ、あれほどの飛行を可能にしたというのか!?」
「さあね。うろ覚えの知識だし、さすがにそれはないような気がするよ」
「なんだ」
「だったら黙っててよ」
「如月さんなんかに期待して損しました」
「……すまない」ますます役に立たないギャラリーを完全無視して、2人のバトルはヒートアップ!
「ハァアアアアアアッ!」
「オォオオオオッ!」『雷の5』
『雷の5』
仕切り直し。―――カッ!
雷光が煌いた。はるか上空で繰り広げられる戦いの後ろに、電飾の槍が突き刺さる。
「どうしよう。ねぇ、醍醐クン! どうしたらいいの!?」
「分からない……ただ俺に言えるのは、GBAの防水機能はそこまですごくはないはずだってことだけだ」
「そうよね。とっくに止まってもよさそうなものだけど……」
「もう限界だな。それにこの雷だ。誰かが止めねば、雷様が落ちてくるぞ」
へそを隠しながら如月が言う。
「危ない! 2人とも、もう止めるんだ!」
「今すぐGBAの電源を切れ! これ以上は無理だ!」
「ジャンケンで! もうジャンケンで決めればいいじゃない、2人とも!」
醍醐たちは遠く上で戦いを繰り広げる2人に必死に呼びかける。
だがその声は2人の耳に届いても、心にまでは届かない。
「ククク……勝負をやめろとか言ってるようだぜ、下の連中は」
「フ……ここまできて、何をいまさら。たとえ天変地異が起ころうとも、止まれるはずがない!」『風の2』
『風の2』「まだだ……まだだぜ、壬生! このくらいで参るんじゃねぇぞ!」
「そっちこそ! 根を上げるには早すぎるよ!」『山の4』
『山の4』「しつこい男だぜ、壬生! ひょっとして俺に気があるんじゃねぇのか!?」
「あるもんか! 君みたいに気持ち悪い男、初めて見たよ!」『炎の3』
『炎の3』「雨に濡れて透けてる俺のブラにドキドキしてるくせに!」
「男子トイレから出てきたくせに!」『水の1』
『水の1』「「お前(君)には、絶対負けない!」」
残る『雷の5』を引いて、またも仕切り直しとなった。
すでに限界を突破している。今の2人を支えているのはプライド、意地、根性―――
そして、全力を尽くしても倒せぬ最強の戦士と巡りあえた喜び。「クク……アーハッハッハッ」
「フフ、ハハハハッ!」誰がこの戦いを止められるというのだろう。
すでに危険な領域に突入しているにも関わらず、2人は一向にブレーキを踏もうとしない。
いや、逆に―――アクセルを深く踏み込む!「次で決めるぞ!」
「君を倒す! 必ず!」下にいる者たちは、ただそんな2人を見上げることしかできなかった。
ここが危険であることは分かっている。だが、もうこの2人の戦いから目を離すことはできない。
「なんてことだ……こんな戦いになるなんて」
「どうしよう。大変なことになったよ」
「そうよね。まさか、2人とも宙に浮いちゃうなんて、滅茶苦茶もいいところだわ」
「だがどうしたらいい? 引きずり降ろそうにも俺たちには届かないぞ」
「ふん、どうせあの2人は酸っぱいに違いないよ」
「如月さん! グリム童話のキツネじゃないんですから!」そのとき、屋上の扉を開く者が。
「止める必要なんてないさ」
「京一!?」
「京一先輩!」
「お前らも来てたのか……久しぶりだな、諸羽」
「いえ、まぁ、はい……」
「?」
気まずそうに顔を逸らす霧島。クスリと笑う美里。
「どうしたんだ? 符咒にはさっぱり興味を失くしたはずのお前が」
「どうもしてねぇよ」
そう言って、京一は戦う2人を見上げる。
……遠かった。
龍麻を親友と認め、ともに語らい、ともに笑った日々を思えば、今見上げる龍麻はとても遠かった。
いつも一緒だった。何をするにも一緒だった。そして、その日々は二度と戻らないものとなった。
自分が―――龍麻から離れてしまったから。
だが、今の龍麻を見れば。あの、ようやく何かを見つけた喜びの顔を見れば。
どうして自分じゃなかったのだろう。
龍麻と正面から向かい合い、真っ向から戦うことのできる人間が、どうして自分じゃないのだろう。
ギリ……。
京一が噛み締めるのは、後悔と、嫉妬と、龍麻から逃げ出した自分自身への怒りだ。
「……ひーちゃん」
何が相棒だ。何が親友だ。
龍麻に一番辛い思いをさせたのは……自分じゃないか。「ひーちゃん!」
駆け出した。届かない龍麻の元に。そこから届かないのなら、精一杯の声を。
「ひーちゃん! 負けるな! 俺の相棒が、そんな奴に負けるんじゃねぇぞ!」
「京一!?」
「京一……」
それは、今までの京一の知る醍醐たちにとって驚きだった。
龍麻がああなって以来、あからさまに龍麻を避けてきた京一。それが今、声を張り上げて声援を送っている。
嵐にも負けないくらいの大声で。
そして、龍麻を再び相棒と―――
「ひーちゃん、頑張れ! 頑張れ! ひーちゃん!」
誰よりも自分が前に出なければ気がすまない性分。他人の応援役なんて、最も京一の嫌うことだった。
だが、その悔しさもみっともなさも構わず、大声で龍麻を激励する京一の姿に、醍醐たちの胸に熱いものが込み上げる。
「……そうだぞ、龍麻! 負けるな! まだまだこれからだぞ!」
「ひーちゃん、頑張れ! 頑張れー!」
「龍麻! 負けないで!」
紫暮も、如月も、霧島もそんな真神の団結に負けない。
「壬生ー! 勝って男を上げろー!」
「仕方ない……応援してやるから、龍麻を倒して帰って来い!」
「壬生さん! 僕はあなたの応援をします! 勝ってください!」『炎の3』
『炎の3』「戦士達は恐れを知らず……そして感動すら与えるほどに清々しい」
「鳴瀧さん!?」
「あんた、いつのまに!?」
本当に、いつのまにか鳴瀧まで来ていた。
雨と風で自慢のソバージュがえらいことになっているが、それでもその渋めの声で格好をつけることを忘れない。
「よく見ておくがいい、少年達よ。これが戦うべき者達の―――戦いだ」
しかし、言ってることにたいした中身はなかった。前もってセリフを考えておかなかったので、グダグダだったのだ。「頑張れ、ひーちゃん! 壬生なんてたいしたことないぞ!」
「押せ押せ壬生! 強気で攻めろ!」
当然、彼らも鳴瀧の存在などすぐに忘れた。
「ひーちゃん、気をつけて! パンツ見えてるよ!」
「壬生君! 気を取られるな! 集中してないと落ちるぞ!」『山の4』
『山の4』
仕切り直し。全ての者がこの場に集い(壬生の母も来ようとはしたが、天候が崩れたので引き返した)そして2人の戦いを見守った。
『風の2』
『風の2』雷が鳴り響き、風が吹きすさび、雨が2人の上に叩きつけられた。
すでに2人は満身創痍。気を抜けばすぐにでも意識が落ちてしまいそうだった。『水の1』
『水の1』だが、止まらない。指先はボタンを叩きつづける。目は画面を追いつづける。
心は今も、互いに向けられている。「壬生……恨みっこなしだぜ」
「あぁ……」
2人には分かっていた。
ここまでくれば、勝利を決めるのは互いの精神力。
絶対に負けられないという、不断の心。
それを相手に叩きつけるのみ―――「「この勝負に負けた方は、符咒封録を捨てると誓おう!」」
壬生は龍麻を。龍麻は壬生を真っ直ぐに指して叫ぶ。
「なっ!?」
「なんだって!?」
下で彼らに声援を送っていた者達も息を呑んだ。
そこまでこの勝負に賭けるとは。なんと苛烈なバトルであるのか。「というより、そこまでこのゲームに賭ける気持ちが分からん」
「たとえ二度とできなくっても、痛くも痒くもないよな、俺らには」
「ですよね」
だが、彼らはそこまで符咒封録に賭けているのだ。賭けちゃったのだ。
それこそ、己の生死の如くに。
「…………」
「…………」
しばしの睨み合い。そして、動き出す指先。「「勝負!」」
ひときわ大きな稲光が瞬いた。残された2枚のカードに全てを託す。
戦いの終着点に向けて。
龍麻の開いたカードは───
『山の4』
そして壬生の開いたカードは
「危ない! 2人とも!」
一瞬のことだった。
雷雲が一声唸ったかと思ったら、怒涛の雷光を2人の頭上に降り注いだ。
爆発したかのような轟音。そして弾け飛ぶ2つの影。「壬生ーーーーーー!!!」
「ひーーちゃーーん!!!」落ちてくる2人の体の向かって、少年達は両腕を伸ばした―――……
―――新宿区中央公園。穏やかな日差しの中で、京一は欠伸をする。
のんびりとした空気が日本中を覆っていると思えるほど、気持ちよい休日の午後。
京一は、ここで春の空気を一杯に吸い込んでいる。
たまにはこんな1日もいいだろう、と、だらけきった自分に許しを与えた。
何しろ、久々の日本なのだから―――「京一先輩!」
「おぉ」そこに現れたのは、後輩の霧島諸羽だ。もっとも、とっくに学校も出てるのに、今さら先輩と呼ばれる筋でもないのだが。
「久しぶりだなー。相変わらず……」
と言いかけて、京一は言葉を止めた。
がっちりとした肩。あれからすくすくと伸びたのであろう身長。
そこには、あの頃の霧島の面影は想像していたよりもなかった。
「……5年ぶりだな」
「ハイ! 5年ぶりです!」
そう。あれから5年。あの壬生と龍麻の激しい戦いから、そして皆が高校を卒業してから5年。
少年が大人の男になるには、十分すぎるほどの年月が過ぎ去ったのだ。
「で、何やってんだよ? 座ればいいだろ?」
「ハイ! 失礼します!」
そう言って霧島は京一のベンチの隣に腰掛ける。
黙っていれば、いつまでも立っているつもりだったのだろうか?
そういうところは変わらないんだな、と京一は内心でクスリと笑った。
「元気そうじゃねぇか」
「ハハッ、そういう京一先輩も!」
久しぶりの日本。中国に渡って5年が過ぎ、そして先日、初めて日本に帰国した。
特に理由があってのことではない。ただ、そろそろ顔でも見ておかないと、心配な連中が何人か日本に残っているというだけだ。
その1人―――霧島諸羽は、見た目だけでも立派な男に成長してくれたようだ。
「…………」
「…………」
特に話したいことがあるわけでもない。でも久々に会う気まずさもない。
ここにある懐かしい空気を、2人は静かに楽しんでいる。「……中国はどうですか?」
思い出したように霧島が尋ねる。
京一はしばらく「うーん」と唸った後、
「でっけぇよ」
とだけ答える。そして霧島は穏やかに笑って「そうですか」と、それだけだった。なんでもない時間だ。ただ、それだけのやりとりで、あれからの5年が急速に縮まった。
「昨日のことみたいです」
「何が?」
「京一先輩と出会って、勝手に師匠と仰いで、必死だった頃のことです」
その言葉に京一も笑う。あの頃の情熱を、こうして語れる程度には大人になった霧島の横顔を見ながら。
「いろんなことがありましたね」
「あぁ」
色褪せない思い出は、今にして思えば全てが青春だった。
熱くなりすぎたり、空回りしたり、何事にも一生懸命だったあの頃。
恥ずかしくもあり、何よりも懐かしい日々。
「……龍麻さんは、元気ですか?」
「さぁな」
龍麻。それも今の京一にとっては懐かしい名だ。
「さぁって……京一先輩と一緒じゃないんですか?」
そう言う者も少なくなかった。
龍麻は卒業後、京一と一緒に中国に渡ったと思っている者も。
だが。
「違ぇよ。俺だって、卒業してから一度も会ってない」
それは本当のことだった。
龍麻がその後どうしているのか、京一だって本当のことを知らない。
それでも、京一にとって、龍麻は今でもかけがえのない親友だということに変わりは無いのだから。
「アイツは……風みたいな奴だからよ」
どこからともなく真神学園に現れ、あっという間に自分を巻き込んで、東京を―――世界を救って消えた男。
目を閉じれば、今でも思い出せる。
龍麻の笑顔。龍麻の怒った顔。いつも一緒にいて、バカなことばかりやって、たまには本気で戦って、そしてまた一緒に笑って。
考えてみればあの1年間が自分にとって一番熱い年だった。
もう戻らない、だけどすぐそこにあるような、不思議な気持ちに満たされる。
「今ごろこの空の下のどこかで、アクビでもしてんじゃねぇの?」
そんな気がする。龍麻も今ごろ、遠いどこかでこの空を見上げてるんじゃないかと。「村雨さんが、新宿2丁目で龍麻さんそっくりのオカマを見かけたって噂もあるんですけど」
「言うな。そんなの人違いに決まってる。そんなんじゃねぇ。それは間違いだ」
「けど村雨さんが言うには……いえ、そうですよね。人違いですよね、きっと」
それから少し長い沈黙があった。「そういえば、壬生さんはどうしたんでしょね?」
「壬生?」
突然出てきた名前に、京一は怪訝そうな顔をする。
「今でも時々思い出すことがあるんです。あの2人の戦いを」
あれから5年も経った。だがあの日のことは京一もはっきりと思い出せる。
その時の心の痛みも。
「ちっ……くだらないこと思い出させんなよ」
「でも」
諸羽はそこで言葉を切って、少し苦い顔をした。
「でも、考え出すと止まらないんですよ。あの戦いは一体なんだったんだろうって」
あの戦いの意味。
それは京一にも分からないことだった。
正確には、思い出せない―――確かにあの時、意味がそこにはあったはず。
だからこそ、精一杯の声を張り上げた。悔しさも喜びも全部詰め込んで叫んだ。
しかし今となっては思い出すこともできない。
なぜなのだろう。あの頃には当たり前に反応できた答えが出てこない。
今とあの頃の自分と何が違ったのだろうか。
いや、きっとそれは―――。
「……京一先輩?」
不思議そうに自分を覗き込む霧島に、京一は笑って答えた。
「お前に思い出せないんなら、俺にはきっと無理だな」
それがきっと、青春だったから。
思い出はすぐそこに見えていても、その頃の感情は戻ってこない。
少年だった頃の無駄に熱かった気持ちは、大人になって上手に忘れることができたのだろう。
だが、それを寂しいことだとは思わない。
そうやって積み上げてきた感情も失敗もあったから、今の自分があるのだから。
「アレ、結局先手を競ってただけですよね」
「あぁ、それだけだったよな。アホらしい」
「負けた方は二度と符咒封録やらないとか言って」
「いいから受験勉強でもしろってんだよな」
思えばただの笑い話だ。なんだってあんなゲームにムキになっていたのか。「……大人になりゃ、自然に忘れることなのによ」
そういうことだと京一は思う。
あれも結局、一時の熱に浮かされた少年達の戯れに過ぎなかったと。
「ていうか、別に世間的には全然流行ってなかったしな」
「そうなんですよね。思いっきりB級ゲームでしたよね」
「ポケモンの足元にも及ばねえっつうか」
「ポケモン下敷きにすら及ばなかったかもしれませんね」
「バカバカしい。何やってたんだかな、俺たちは」
「でも……僕は思うんですよね」
「何が?」
「あの2人。あそこまで符咒封録に賭けていた2人だからこそ、神様は2人のどちらも負けさせたくなかったんじゃないかって」
「……だから雷落とすってか? ひでぇ神様だな」
「確かにそれはそうなんですけど……あの2人、今も続けてるんでしょうか?」
「まさか。ガキじゃあるまいし」
「そうですよね……だけど僕、あの最後の瞬間、どっちかが先手を取ったような気がするんです」
「それで決着ついたって? どうだかな。覚えちゃいないよ」
「僕もです。あの雷の瞬間のことですから、もう必死で」
「へっ、別にどっちだっていいよ。興味ねぇし」
話をそこで切り上げるつもりで、京一はグンと伸びをしながら言った。
だが、霧島はそこで意味ありげに笑い、ポケットから何かを取り出した。
「京一先輩、いいもの見せてあげましょうか」
「ん? なんだよ?」
「じゃーん」細長くて、白い長方形。
それはホワイトカラーのニンテンドーDSliteだった。
京一の腹が、グゥと鳴った。「うまそうなはんぺんだな」
「違います。これはDSと言って、GBAは今この後継機に変わってるんですよ」
「へえ」
「符咒封録も遊べるんですよ」
「へえ、ホントだ」
霧島のDSの下部には、符咒封録のソフトがはみ出しながら差さっていた。
「かっこ悪いな」
「そうなんですよね。まあ、GBAのソフトはもうすぐ新製品なくなりますから」
「ふぅん」
「やってみますか?」
そう言われて、京一はフンと笑った。そこまでの興味はなかった。
「いいよ。こんなところで遊んでもしょうがねぇだろ?」
「ハハっ、そうですよね」
「さてと……そろそろ行くかな」
「え?」
突然立ち上がった京一に、霧島は呆けたような声を出す。
「醍醐と待ち合わせてるんだよ。アイツ、昨日は試合あったから都合つかなかったんだよな」
「え、そんな、もう行っちゃうんですか?」
子犬みたいに悲しそうな声を出す霧島に、京一は思わず笑う。
意地悪はこのくらいにしておくかと、思ってしまう。
「で、夜はかつての連中集めて飲むからよ。お前も来るか?」
「はい?」
クイっと盃を空ける真似をして。
「もう飲める年だろ、お前も?」
悟った霧島が、立ち上がって答えた。
「ハイッ!」
「ははっ、それじゃ後で連絡するからよ。予定あけとけ」
「ハイッ!」
笑って手を振る京一に、霧島は「また後で!」と大声で見送った。
自分も京一と酒を飲める年になったということを、先ほどまで忘れていた。
ついつい、あの頃の自分に戻っていたようだ。そんな自分にちょっと笑い、霧島はベンチに座りなおした。
その拍子に、ゴト、とポケットからDSが滑り落ちる。
それを手に取ってみて、あらためて霧島はどうして今日、京一に会うのに符咒封録を持ってきたのかと思った。
単なる懐かしさもあった。あるいは何か予感するものがあったのかもしれない。が、自分の思い出の中で京一と符咒封録に直接の結びつきはない。
自分が勝手に京一のデッキを組んでただけだ。しかも今となれば、それも少し恥ずかしい思い出だ。
今日、京一と会うのに、一番に見て欲しかったのは成長した自分。
子犬のようにまとわりついていた5年前に比べ、どれほどの男になったかを京一の目で判断してくれることを期待していた。
しかし実際のところ、どうだったのだろうか。
時々京一が自分に懐かしげな瞳を向けていたことが気になっていた。
自分で思っていたよりも、自分は変わってはいないのかもしれない。なんとなく思い当たるふしもある。
少し残念だが、今日はまだ時間もある。酒でも飲みながら、大人の話もしてみよう。
符咒封録を持ってきたのは、たぶん、高校時代の強烈な思い出の一つだったからだ。不可思議な思い出だからだ。
あの日の嵐の中で叫ぶ京一の背中を思い出しながら、霧島はなにげなくDSの電源を入れた。
『Marvelous Interactive Inc.』
あの頃は、ずいぶんとこのゲームにハマったものだ。
教室の片隅で、待ち合わせまでの暇つぶしで、ファーストフード店での語らいで。
青春時代の一時期、思い出と一緒にこのゲームがあった。そして自分は、クラスの中でも最強だなんて自称していたこともあった。
今、こうして思い出してみると恥ずかしい過去だ。単に自分は他のクラスメートより子供っぽいヤツだったというだけだ。
『魔人學園伝奇生誕伍周年記念』
そういえば、この起動時間が長すぎると文句を言っている人もいた。
壬生紅葉は今、どこで何をしているのだろうか。
今でも、あの時の帰り道で佇んでいた壬生の黒いコート姿は鮮明に思い出すことができる。
突然呼び止められて、なぜか2人でこのゲームの話をした。
その後、理由も分からずコテンパンにされた。
思い出しても理不尽な夜だった。だが、今思うと滑稽な思い出でもあった。
『シャウトデザインワークス』
孤独に、ひたむきに強くあろうとした壬生。
一体何が、彼をあそこまで符咒に傾倒させたのだろう。
今となっては、霧島に分かることは何一つない。
『マーベラスインタラクティブ』
だが、最強とは何を指すのか、今の霧島には分かる。
かつての霧島は、誰よりも強い者が最強なのだと思っていた。単純で分かりやすいピラミッドの頂点にいる者がそうなのだと。
だが、それも次の最強が現れるまでの話。次から次へと現れる最強を目指す者の前に、いつか最強も倒れる時がくる。だとしたら、最強という言葉にそれほどの意義などない。
だがあの日、壬生や龍麻が口にしていた最強とは、そうではなかったような気がする。彼らの覚悟は、その程度のものではなかったと思える。最強とは───、最後の1人になるまで戦い続ける者のことなのだ。
そしてその道程には、永遠に終わりなどないのだ。
『東京魔人學園符咒封録』
何度も聴きなじんだ曲が、耳に懐かしい。
だが、今このタイトルを前にして、懐かしさは感じても、あの頃のような高ぶりは感じない自分に気づいた。
それはきっと“最強”を目指した壬生の戦いを知ったから。
そこにある孤独や虚しさを知ってしまったからだろう。
彼はそのことを知っていたのだろうか。その孤独を全て受け入れるつもりで、あのような戦いを繰り返していたのだろうか。
今となっては分からない。少なくとも自分には絶対に無理だ。
そのような孤独が似合うのも、また壬生紅葉くらいしかいないのだから。あの日、自分という獲物を待って夜道にポツンと立っていた壬生。
どこまでも続く孤独への道程を、ただ1人で駆け上っていこうとしていた背中を寂しく思い描きながら、霧島は何気なしにスタートボタンに親指を伸ばす。そして、ふと笑った。
あれから5年。
壬生も龍麻も符咒封録のことなど忘れ、それぞれの人生を生きている頃だ。
どこで何をやっているのかなんて知らない。だがきっと、どこかにあの時の面影を残しつつ、大人になった彼らがいるのだろう。
今日の自分のように、時々は少年時代のことを懐かしく振り返りながら。さて、と息をついて顔を上げる。
まだ日は高いが、一度家に帰って夜に備えることにしよう。
今日はとことん京一と飲み比べるつもりだ。京一が参ったと言うまで飲んでやる。
だから少年時代を懐かしむのはここまでだ。
今ある自分を、楽しむためにも。
傍らにはまだテーマ曲を流し続けるDS。もはや何の感慨も失くなったそれを霧島は拾い上げ、電源スイッチに向けて手を伸ばす。―――だが、霧島の指は、そこで止まってしまった。
目の前を覆った影は、まるで過去の闇から抜け出てきたかのようだった。
その鋭い眼光も、挑発的な微笑も、あのときの少年と何一つ変わってはいなかった。
忘れたはずの血の熱さが、一気に全身を駆けめぐる衝動に霧島はただ震えた。
それは、青春そのものだった。
「僕と、勝負するかい?」
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壬生紅葉【暗殺者】【黒衣の狩人】
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霧島諸羽【騎士】如月翡翠【忍者】
紫暮兵庫【二重身】
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蓬莱寺京一【神速の剣士】醍醐雄矢【格闘家】
桜井小蒔【弓使い】
美里葵【聖女】
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村雨祇孔【博徒の王】劉弦月【符術士】
御門晴明【陰陽師】
紅井猛【紅の熱血漢】
黒崎隼人【黒き疾風】
アラン蔵人【霊銃使い】
雨紋雷人【槍使い】
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鳴瀧冬吾【陰の武道家】
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緋勇龍麻【龍の伝承者】
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携帯電脳遊戯最強伝説
符咒バトラー壬生!
完
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