■俺の肩には小っちゃい醍醐が乗っている全12章
2006 the reverse side of a hanging scroll : recharge
第1章 【大きい醍醐と小っちゃい醍醐と普通の俺の物語】
俺の肩には小っちゃい醍醐が乗っている。しかも、他の奴らには見えないらしい。
俺の肩の上にちょこんと腰掛け、たまにくすぐったい声で話しかけてきても、それは俺にしか聞こえず、相手でもしようものなら、1人でぶつぶつ喋っている危ない人に思われてしまう。で、当の醍醐本人は何をしているかというと、小っちゃい醍醐のことなど知らず、普通に授業なんか受けている。
いつものように登校し、いつものように授業を受け、いつものようにレスリングなんかしてる。
俺がノイローゼ寸前だってこと、まるで気にかけちゃいない。なんなんだろう、これ?
「汚い字だな、龍麻」
授業のノートを取っている俺の耳元で、小っちゃい醍醐があきれたように言う。
「書は心を映す鏡だ。普段から綺麗な字を書くように心がけたほうがいい」
ちなみにこいつは、大きい醍醐よりも口うるさい。
醍醐1人でも辟易するときがあるっていうのに、ぴったり引っ付いてアレコレと口出されてはたまらない。
姑が泊まりに来たまま帰ってくれない嫁の心境だ。『うるせーバカ。授業中に話しかけるな』
ノートの上段に走り書きした俺の字に、小っちゃい醍醐は顔をしかめる。
「お前のために言ってるんだ。授業中に落書きなどするな」
『うるせって。お前がつべこべ言うからだろ』
「字というのは書いた本人の印象にもなる。他人に読ませることを意識しながら書くといいぞ」
『俺の字は芸術なんだよ。理解できない太衆が悪いのだ』
「いいや、お前の字は芸術とは違うと思うぞ。あと大衆の大は太じゃない」
『それはお前も凡俗な犬衆の1人だからだ。俺のノートを隅々まで読んで理解を深めろ』
「形象文字のルーツが探れそうだな。だが断る。読める字を書け」
『狸れ』
「たぬきれ?」
『だまれってんだよ!』「緋勇、何してる?」
「うっさい! しつこいぞ!」思わず叫んだ俺の声に、教室は静まり返った。
最後のは、犬神の声だった。今にも牙を剥かんばかりの形相で俺を睨み付ける犬神の声だった。「……醍醐君がしつこく話しかけるもんですから」
「俺ッ!?」
「2人とも、授業が終わるまで立ってろ」大きい醍醐が、訳も分からず渋々と席を立つ。番長に言い訳などない。
そして小っちゃい醍醐も、何故か俺の耳に捕まりながらフラフラと立っている。「お前まで何やってんだよ?」
「……俺にも責任はあるからな」ていうか、全部お前のせいだけどな。
第2章 【マジでお前のせいだけどな】
「龍麻、さっきのは何だ? なぜ俺なんだ?」授業の終わった後、大きい醍醐が俺に近づいてきて言った。
まあ、当然の疑問だ。だが小っちゃいお前が俺の肩に乗ってるなんて、とても言えまい。いや、やっぱ言ってみよう。「小っちゃいお前が俺の肩で囁きかけるんだよ」
「んん? どういう意味なんだ?」こいつにも、小っちゃい醍醐は見えてない。小っちゃい醍醐は、黙って俺の肩に止まっている。
やっぱり言うだけ無駄だったか。「なんでもねーよ。むしゃくしゃしたからお前を巻き込んだだけだ。気にするな」
「いや、気にするなと言われてもな……まったく、無茶苦茶なヤツだな」お前がな。
「最近のお前、ちょっとおかしいぞ。何かあるんじゃないのか?」
肩に小っちゃいお前がな。
「京一のヤツは今日もサボりのようだし。問題事でもあるなら、遠慮無く俺に言えよ」
何度となく言ったさ。
いろんなヤツに、そしてお前にも。
ひょっとしたら俺はノイローゼなのかもしれない。「なんでもないって。気にしないでくれよ」
「……そうか」しばらく俺を見つめた後、醍醐は頷いて引き下がっていった。
ご丁寧に、親切な一言を残して。「話す気になったら、いつでも言ってくれよ」
第3章【お前に言うくらいならマグロにでも相談したほうがマシだぜ】
まったく、俺の気も知らないで醍醐は勝手なことを言う。
こういう系の話は苦手なクセに、虎に化けたり小っちゃくなったり、なんなんだお前は?そして終業後、まっすぐ帰宅に向かう俺に対して、肩の小っちゃい醍醐は不満のようだ。
「たまには運動したらどうだ? 家と学校の往復だけでは、すぐに体がなまってしまうぞ」
「あーあー、うるせーなー。もう肩に乗ってるのは許してやるから、俺のやることにいちいち文句つけるの止めれよ」
「俺だって言いたくて言ってるわけではないぞ。だがお前の普段の生活態度を見ていると、どうしてもだな」
「あーもう、すげー余計なお世話」
「そうだ。たまにはレスリング部の練習に顔を出してみるのはどうだ? 大きい俺も歓迎すると思うぞ」
「余計なお世話だって言ってんだよ、お前も大きい醍醐も。俺は隠れて努力するタイプだからいーの!」
「ここ一週間ほどお前の生活を見せてもらったが、10年後のお前はすぐに想像できたぞ。俺の想像どおりになりたくなければ、俺の言うことに耳を貸すんだ。泣くぞ」
「どんな想像か気になるな……いや、やっぱりいい。誰がお前の言うことなんか聞くもんか」
「いいか、このままだとお前の10年後は―――む?」誰もいない下駄箱の前に、ポツリと学校の怪談のように立つ少女がいる。
あの佇まいはミサちゃんだ。「うふふ〜、ひーちゃん、今帰り〜?」
「おう、ミサちゃんも?」
「私はまだやることがあるの〜。その前にひーちゃんに言っとこうと思って〜」
「俺に? なに?」
「最近、気脈が乱れて地下の霊場が不安定なの〜。旧校舎には近寄らないほうがいいかも〜」
「ふーん。まあ、あんなとこ行く気ないけどな。一応気をつけとくよ。サンキュ」
「うん。じゃあね〜」
「まったねー」ミサちゃんが行った後、俺の後頭部にへばりついて隠れた醍醐がようやく顔を出した。
「ふう。行ってくれたか」
「なに隠れてんだよ。小っちゃいお前もミサちゃんは苦手なのか?」
「うむ、俺も大きい俺も根本的には変わらないからな。彼女のそばにいると怖気が立つ」
「なるほど。ミサちゃんに呪いを落としてもらうという手もあったな」
「バカ、よせ。俺は呪いじゃないぞ。言ってみれば妖精みたいなものだ。妖の類とは違う」妖精だって?
「正直、どうしてこんなことになったのかは、自分自身でも分からない。だが、こうしてお前のそばにいると……どうした龍麻? なんだ? 何をそんなに笑っているんだ? オイ、何がおかしい?」
第4章 【マッチョ妖精の夜】
「ぶひゃひゃひゃひゃっ」
「しつこいぞ、いつまで笑ってるんだ!」夜中、自室のベッドの中で思い出し笑いしてしまった俺を、小っちゃい醍醐がたしなめる。
ちなみに僕の妖精さんは、机の上でハンドタオルを毛布代わりに使ってる。
枕は消しゴム。固そうだ。「すまん、こんなに笑ったのは『魔人学園と呼ばれている』以来だ」
「そっちも俺か。だからそれは違う。本当にそう呼ばれているんだ。シャレのつもりじゃない」
「俺、お前のギャグセンスって、結構好きかもしんない」
「いい加減にしろ。俺はシャレや冗談など言わん」
「妖精さんかー。お前が俺のティンカーベルなら、俺は一生ネバーランドには帰らんよ。ぶひゃひゃ」
「しつこいぞ。その発言ならもう忘れてくれ。例えが悪かったな、まったく」
「で、結局さー」
「うん?」
「お前って、一体なんなの?」
「……」
「俺たちの周りにうろちょろしてる、いつもの妖魔の類いか? それとも本物の妖精? んで、どうして醍醐なんだ? どうして俺には見えて大きい醍醐には見えないんだ?」小っちゃい醍醐が、黙り込んじゃった。
考え込むときの、なんとなくこの雰囲気が、やっぱり大きい醍醐に似てる。
声が掛けづらい。重たいんだよな、こういうときの醍醐。「すまん……俺にも分からないんだ」
自信無さげに、小っちゃい醍醐は言った。
「俺は醍醐雄矢で、だが、醍醐雄矢本人とも違う。自分でも分からないんだ。気が付けば、この大きさでお前の肩に乗ってた」
ハンドタオルに、ギュッと皺が寄った。
「お前には、いい迷惑だろうな。それは本当にすまんと思っている。どうにかしたいとは思っているんだが」
我らが番長様ともあろうものが、子供みたいにタオルに包まって、情けない声出してやがる。聞くに堪えねー。
「お前のことが心配だよ、龍麻。俺のせいで、周りから変な目で見られてるんだろう? 本当にすまないな」
「悪いと思ってんなら、別にいーよ。ぐちぐち言ってないで早く寝ろ。俺だって眠いんだからな」
「あぁ……すまん。おやすみ」だったら、大人しくしてろってんだ。
お前が大人しくしてるんなら、妖精さんの1匹や2匹、肩に乗せてるくらいなんともねーよ。
世の中には不思議なことも、理解できない存在も腐るほどある。新宿に転校してきて、分かったことだ。
いちいちそんなことに大騒ぎしていては、大都会では生きていけない。
お前みたいの1匹くらい、なんともねぇ。たまにパンくずでも餌にくれてやってもいい。
俺が黙って受け入れれば、それでいいのだ。それだけのことなのだ。
第5章 【そしていつもの朝が来た】
「おはよう! 今日も気持ちのいい朝だな!」小っちゃい醍醐が、俺の顔の上に立っていた。
「どうした、龍麻? もう起きる時間だぞ」
「……ひまひゃんひやとおもっへんらよ?」コイツの足が俺の口を引っ張って、上手く喋れない。
「今何時かって? うむ、5時半だ。今日も絶好のジョギング日和だぞ」
首の辺りをひねって、こう、コキャキャッと言わせればコイツも大人しくなるかもしれない。
あるいは、獰猛な野良猫の2、3匹でも飼おうかしら?「さあ、ぼさっとしてないで顔でも洗ってきたらどうだ? スッキリするぞ!」
なるほど、洗面台にプールを作って沈めるという手もあったか。
明日から気持ちの良い朝が迎えられそうだぞ、テメエ。
第6章 【晴れた日は釣り竿を持って】
今日も気持ちの良さとは縁遠い朝だ。
隣のクソチビ醍醐だけが、清々しい顔してる。
そうだ。次の日曜日には釣りに行こう。餌は新鮮なほうがいい。「ひーちゃん、おはよー」
教室に入ったら、小蒔が元気な顔して話し掛けてきた。
「うわ、どうしたの? 目が真っ赤だよ?」
「ファッキン目覚ましが今日もファッキンな時間な俺を起こしたからな」
「ふーん。ねえ、醍醐クンがどうしたか知らない?」醍醐?
「ファッキン・フェアリーなら俺の肩に―――」
言いかけて、やめた。どうせ小蒔には見えていない。
「醍醐がどうしたって?」
「さっきレスリング部の2年生が来て、連絡なしに朝練に来てないっていうんだ。ひーちゃんなら知ってるかと思って」小っちゃい醍醐も、首をかしげてる。
あのレスリング馬鹿が理由もなしに休むとは、確かに考えにくい。なにしろリングの妖精なのだ。「いや、知らね。風邪でも引いたんじゃねーの?」
「うーん。昨日は元気だったんだけどね。部活の後も、1人で旧校舎で特訓するって」旧校舎のとこだけ、小蒔は声をひそめて言った。
一般生徒には旧校舎のことは秘密だ。「だったら、はしゃぎすぎて寝坊でもしたんじゃねーの? あそこの魔物にどうにかされる醍醐じゃねーし」
「うん……そうだよね」
「そうそう。どうせレスリングパンツが破れたから人前に出れないとか、そんな理由だって」
「アハハ。なんだよそれ。あ、そうだ昨日ひーちゃんが言ってたラーメン屋に葵と行ってきたんだけど―――」ハハッ、小蒔のやつ、安心したらさっそく食い物の話題かよ。しょうがねぇの。
まあ、それにしても小蒔に心配されるなんて、醍醐も幸せな奴だ。
万が一のことがあったにしても、草葉の陰で微笑んでらっしゃることでしょう。……んん?
万が一?
『最近、気脈が乱れて地下の霊場が不安定なの〜。旧校舎には近寄らないほうがいいかも〜』
↓
『さっきレスリング部の2年生が来て、連絡なしに朝練に来てないっていうんだ』
↓
『部活の後も、1人で旧校舎で特訓するって』
↓
『最近、気脈が乱れて(以下同文)』×5ループ
↓
アウチ!?「……で、ボクはひーちゃんの言ってた熊の睾丸ラーメン頼んでみたけど、それほど熊っぽくな―――」
「バッキャロー! なんでそれをもっと早く言わないんだよ!」
「えっ、なになに? ひーちゃんも行きたかったの?」
「こうしちゃいられない! 小蒔! 俺の代返は任せたぞ!」
「いや、それは無理だよッ!? ひーちゃん!? ひーちゃん、どこ行くの!? 睾丸ラーメン!?」何をのん気にゲテモノラーメン語ってるんだ、小蒔のヤツ! ていうか、睾丸言うな! 食うな!
それより醍醐のヤツ、旧校舎だって!?
あそこは危険だとミサちゃんが言ってたのに!「龍麻! お前、まさか1人で旧校舎へ行くつもりか!」
耳元で小っちゃい醍醐が叫ぶ。だが、構ってるヒマはない。
「よせ! 裏密が危険だと言ってただろう! 先に仲間と連絡を取ろう!」
何を悠長な。昨日から醍醐が潜ってるんだぞ!
「無茶はするな! お前だって危険なことには変わりないんだぞ!」
醍醐が帰ってきてないんだぞ!
「やめろ、龍麻! こうなったら、力づくでもお前を止めるぞ! うおおおッ!」
小っちゃい醍醐が俺の耳に卍固めをかけて、くすぐったい。
だが、そんなことを気にしているヒマも俺にはなかった。「醍醐、今行くぞォォォオオッ!」
第7章 【だけど耳ひしぎ逆十字はちょっと痛かった】
不穏な氣が旧校舎の地下を満たしていた。
小っちゃい醍醐も、顔色を変えた。「これは……」
「確かにひどいな……」足を一歩踏み入れるのもはばかれる。
しかし、今は恐れてる場合ではない。「醍醐ー! いるかー!?」
俺の声はあちこちに反響して掻き消える。返ってきたのは醍醐の声ではなく、地鳴りのような化け物の声。
「くっ……!」
「龍麻、ここはやはり一度引き返すべきだ。仲間を集めて、出直そう!」
「そんなこと言ってる場合かよ! テメエは成りだけじゃなく、度胸まで小っちゃくなったのか!」俺は走った。向かいから熱風のように押し寄せてくる瘴気をかき分けるように、地下の奥まで走った。
「醍醐ー! 返事しろー!」
かすかに、かすかに人の声がする。
(……龍麻、か……?)
「醍醐!? 醍醐か!?」奥の方、真っ暗な向こう側から、醍醐の弱った声がする。
(来るな……ここは危険だ。外に出て旧校舎を封鎖するんだ。誰も近づけるな……)
「そこにいるのか!? 待ってろよ、すぐに助けるからな!」
「よせ、龍麻! 大きい醍醐の言うとおりにしろ! ここは危険だ!」大きい醍醐も、小っちゃい醍醐も、勝手なことを言う。
他人の心配するヒマがあったら、自分の心配しろってんだ。
お前のそういうところが、俺たちにいらん心配させてるってこと、いい加減気づけよ!(来るな、龍麻!)
「行くな、龍麻!」今助けてやるからな、醍醐―――!!
第8章 【醍醐を取り戻す前に戻してしまう俺】
ヒィィィィィイッ!?
伏姫(大蛇)がウジャウジャいるぅぅぅううッ!?「来るなと言ってるのに、龍麻……」
醍醐の姿も見えなくなるほど、伏姫の不気味な群れが旧校舎を埋め尽くしていた。
俺は朝食に食べたパンを、軽く吐き戻してしまった。
「納豆にしなくて良かった……」あれは悲惨だからな。
「だがこれは……手の出しようが無いぞ……」
こうも密集されては、大技を繰り出しても醍醐が無事に済まないだろう。
一晩の戦いですっかり衰弱したらしい醍醐は、全身を這う伏姫の前に無抵抗でぐったりしている。
ひょっとしたら、ちょっと気持ち良いんじゃないか?
だが、醍醐の体力はもう限界だ。一刻も早く助け出さねば。「や、やはり、一度戻ろう。大きい醍醐なら心配はいらん。鍛え方には自信があるからな。うむ」
小っちゃい醍醐の作り笑いも、わざとらしいだけだ。
どうして自分のことを、もっと大事にできないのかね?俺に任せりゃ、問題ないのに!
「龍麻……? なにをしている?」
俺は昼食用のメイプルシロップを取り出した。今日の昼はコッペパンだけ買って、かけて食べる気だった。
今月は財政がピンチなのだ。これを使うのは心底もったいない。が、今は仕方あるまい。「ちょっと離れてろ、小っちゃい醍醐!」
「え?」俺は小っちゃい醍醐を天井に向けて放り投げた。情けない悲鳴を上げて、小っちゃい醍醐は鍾乳石っぽい岩にしがみつく。
お前はそこで大人しくしてろよ。「龍麻!?」
次に俺は顔面にメイプルシロップを塗りたくった。べたべたしてウヒー!な気分だが、我慢、我慢。
「伏姫ちゃん! 美味しそうなハチミツ男の登場だぜ!」
「なに!? なにをやってるんだ、龍麻!?」洞窟内にハチミツの匂いが充満する。鎌首をもたげ、チロリと舌を伸ばす伏姫たち。
「龍麻、お前、何をする気だ!?」
伏姫は一斉に俺に向かってきた。強烈な光景だ。子供とお年寄りには見せられない。
「逃げろ! 龍麻、逃げてくれ!」
小っちゃい醍醐の叫び。絡み付く伏姫の群れ。息もできないほどの圧迫感。
だが、俺は視界の端で大きい醍醐の体が自由になるのを見た。これだけ集めれば十分だ。
気脈が乱れているとミサちゃんは言った。その影響をモロに受ける地下洞窟で魔物が異常発生したのなら、今の気脈は活発になっているということだろう。
ならば、俺の《器》に与える影響も如何ほどのものか。「ハァアアアアアッ!!」
丹田に集めた氣を燃焼させる。
全身に熱が行き渡って、その熱が地のエナジーを吸い上げ、巨大な氣の御柱となる。
燃えろ、大地の氣よ。その輝きしき《力》で、はびこる妖魔を浄化せよ!「キシャアアアアアッ!?」
わずか3行で伏姫たちは全滅した。
すごいぞ、俺! すごいぞ、大地の氣とやら!
何でもやってみるもんだ!「龍麻……」
「大丈夫か!? 大き、いや、醍醐!」ふらふらだが、まだ立ち上がる元気はある。
良かった。これなら、地上で休めばすぐに元気になるだろう。
まったく、あきれた体力馬鹿だぜ!「すまなかった……誰にも迷惑はかけまいと思ってたんだが……」
「ばっかやろう。お前のそういうところが、俺には大迷惑だっての。やばいと思ったら、すぐ俺に連絡しろよな」
「あぁ……ハハっ、まさか、お前に説教されるとはな……」
「もう喋るな。ホラ、肩貸してやるからよ」
「すまん」どっしりとした体重が俺の肩にかかる。だが、このくらいなら、いくらでも背負って歩ける。
いくらでも、いつでも、な。「お前に肩を借りるなんてな……だが、こういうのも、心地いいものだな」
「バカ、変なこと言うなよ。こっ恥ずかしい」
「ハハハ、すまん……」
「第一、お前には毎日肩を貸してやってたじゃねぇか」
「うん? どういうことだ?」
「どういうことって、そりゃ―――」あれ? 小っちゃい醍醐は?
「小っちゃい醍醐はッ!?」
「え? なんだ?」そのとき、ヒラヒラと頭上から舞い落ちてくる人形っぽいのが。
「小っちゃい醍醐ォォッ!?」
第9章 【さよならマイフェアリー(アフロヘアー編)】
それはもうね、なんと言っていいのやら。
まるで使い古された台所のスポンジのようにというか。
不況と不人気の波に飲み込まれた哀れなキャラクターグッズのなれの果てというか。
とにかく、まぁ、ようするに俺のやったことの巻き添えを食ったらしいのだが。「ボロボロじゃないかーーーッ!?」
あの大地の氣とやらが頑張ったところの、真上に小っちゃい醍醐はいた。
そうだ。だって俺が真上に放り投げたんだもの。コイツはあのとき、最も熱い場所にいたのだ。
すっかり忘れてた。「大丈夫か、小っちゃい醍醐! しっかりしろ!」
「小っちゃい醍醐? なんだ、何の話だ?」大きい醍醐が訝しげに首を傾げるが、俺はそれどころではなかった。
小っちゃい醍醐は、それこそ虫の息なのだ。「……龍麻……」
「目を覚ましたか、小っちゃい醍醐! 待ってろ、今、結跏趺坐を魯班尺で―――」だが、あぐらをかいてウンウン言い始めた俺を(魯班尺で射程を延ばしてるよ)小っちゃい醍醐は手で制した。
「いい……俺なら大丈夫だ……」
「強がり言うな、小っちゃい醍醐! お前、すごいアフロだぞ! 大丈夫なもんか!」
「そうか……すごい熱だったからな……だが、本当にいいんだ。自分でも分かる。俺はもうすぐ消える」
「なんだって!? そんなバカな!」
「ありがとう、龍麻……大きい俺を助けてくれて。お前は本当にすごい男だな」
「どうでもいいよ、そんなこと(照)! いいから、じっとしてろ!」
「俺はな、龍麻……お前の心配ばかりしていたんだが、それは見当違いだと分かったんだよ」
「なに? 何のことだ?」
「俺がお前の心配しているように、俺もお前に心配かけてるんだな。どっちがどう、という関係じゃなかった。お互いが寄りかかったり、支えたりして成り立っている。そうか、これが、親友ってヤツか」
「バカヤロウ。なにを今さら悟ってやがるんだよ!」
「ハハッ、そうだな。お前はとっくにそれを知っている。お前のような親友を持ったことが、俺の誇りだよ」
「やめろよ! いつもみたいに小言でも言え! これで最後みたいなこと言うな!」
「ありがとう……龍麻……」
「小っちゃい醍醐!」
「お前が明日から、ちゃんと早起きできるか心配だ……」体から淡く光を放って、そして、光の粒になって、元の小っちゃい醍醐だった光は飛んだ。
俺の手の平には何も残らなかった。小っちゃい醍醐は逝っちまった。「小っちゃい醍醐ォオオオオオッ!」
「俺なら大きいぞ、龍麻……?」最後まで、小っちゃい醍醐は俺の心配をしていた。
俺、アイツを殺しちまったんだ。
第10章 【大きい醍醐と大盛りラーメン】
失って初めて解ることもあるという。
小っちゃい醍醐がいなくなって解ったことといえば、俺ってやっぱりダメな人間なんだなぁってこと。
早起きなんて出来やしない。授業なんてまともに受けられない。
何にもやる気がしなかった。あれから数日経った今でも。
俺、他人に言われないとできないタイプなんだなぁ……。「よお、龍麻。奇遇だな、今帰りか?」
校門前で、醍醐と鉢合わせた。
コイツは小っちゃい醍醐のことなど、未だに知らないでいる。今となっては、教えることでもないが。
だって、俺が殺しちまったんだもん。「ぐす……」
「ど、どうした、大丈夫か!?」
「なんでもね……じゃあな、またな」
「ま、まあ待て。どうだ、久しぶりにラーメンでも寄ってかないか?」
「気分じゃねぇよ」
「いや、授業の後は腹がへってな。よし、そうと決まったらさっそく行こう!」気分じゃねぇって言ってるのに。
無理やり引っ張られて、俺は醍醐と王華に寄った。「チャーシュー大盛り2つ。そうだ、玉子もつけるか? うむ、たまには栄養つけないとな!」
何があったか知らないが、大きい醍醐はご機嫌だ。
まったく、人の気も知らないで。小っちゃい醍醐が聞いたら、きっと学校帰りの買い食いはどうのこうのって、怒るんだぞ。
あぁ、やっぱり来なきゃ良かった。気分が乗らない。大きい醍醐にも悪いよ、なんか。「へい、お待ち」
だが、ゴトっと目の前にどんぶりを置かれると、腹がギュギュっと鳴る。
どんなに落ち込むことがあっても、食欲の減らない俺。「食えよ、龍麻」
麺をすすりながら、醍醐が俺を促す。喉が鳴って、割り箸に手を伸ばした。
あ、だけど忘れてた。俺、今月はコッペパンで過ごさなきゃならないほどピンチだったんだ。「醍醐、悪いけど……」
金がないと言いかけた俺に最後まで言わせず、醍醐はニヤッと笑って言った。
「今日は俺のおごりだぞ。遠慮なく食え」
マジで? マジでいいの?
「なんだよ、大将。今日は気前いいじゃーん。好き好きアラービュー!」
言い忘れてたが、俺はゲンキンな男だ。
割り箸をカチ割り、激しくいただきます!
チャーシューをめりめり食って、半熟玉子をぐりぐりスープに伸ばして、麺をひたすすり、メンマはこりっこりっ音を立て、どんぶり一杯分の旨みの真髄を味わい尽くす!
さすが王華、あいかわらずいい仕事してるぜ!「……まあ、ラーメン一杯で元気が出るなら、安いもんだ」
スープをゆっくり味わってた醍醐が、ポツリと微笑んだ。
俺はその横顔に、ひたと手が止まった。そういや、今日は醍醐、部活はいいのだろうか?
俺は校門前の遭遇が、偶然なんかじゃないことにようやく気づいた。
よっぽど自分のことで頭がいっぱいだったのだろう。コイツの気遣いが、今ごろになって分かるなんて。……まったく。
小っちゃい醍醐も、大きい醍醐も、どうしてこうお節介なんだか。
人の心配してられるほど、お前もしっかりしてないよって、こないだ教えてやったのに。
コイツのこれは、もう病気だ。どうしようもない。小っちゃい醍醐の、正体が分かった気がする。
醍醐はいつも、こんな調子で他人のことを心配して。
心配して、思いつめて、抱え込んで。
抱え込んで、抱え込んで、いっぱいいっぱいなっちゃって。
そして、いっぱいいっぱいになった頃に、おそらく鼻の穴あたりから、あふれ出るのが小っちゃい醍醐なんだろう。
まったく。
超キモいぜ。だけどまぁ、そういう変なヤツが、俺の周りに1人くらい居てもいいと思う。
そして、たまたまソイツが、俺の親友だったとしても、別に悪い気分はしない。
全然、悪い気分じゃないよ。
だって、俺たち、親友なんだもんなぁ。な、小っちゃい醍醐?
「……な、なんだ? 何をニヤニヤしてるんだ?」
「いや、べっつに。なんもおかしくねーよ」
「麺が延びるぞ、さっさと食え」
「へいへい」2人して、学校帰りのいつもラーメンをすする。あ、いつもより、ちょっと豪華か。
今日は醍醐に、感謝感謝だ。
明日からは、もうちょっと頑張って早起きしてみようかな。「それにしても、今日も京一のヤツはサボりだったな。まったく、何をしてるんだか」
照れ隠しなのか、醍醐は京一のことに話題を振る。
まったく、コイツの心配性は際限ない。
コイツは知らないんだろうな。自分の心配性が、ちょっぴりあふれ出て他人に迷惑かけてるなんて。
ま、しばらくは黙っててやるけど。「どこまで人に心配かければ気が済むんだか。困ったヤツだ」
気難しそうな顔でスープをすする。醍醐も何かと大変だな。
けどまぁ、そうか。京一もこれで何日連続して休んでるんだろ?
アイツのことだから、俺は余計な心配してないけど。
だけど醍醐のヤツは、やっぱりそう簡単にはいかないみたいだ。
まったくもって、ご苦労さんです。
……ん?んんんん???
醍醐が京一の心配をしてるって??????
第11章 【そういや俺は京一のことを忘れていた】
「京一! いるんだろ、ここを開けろ!」
「……ひーちゃんか……?」
「そうだ! 会いに来てやったぞ! まったく、心配させやがって!」
「ダメだ……ッ! 来るんじゃねぇ!」
「どうしてだ!? 何かあったのか、京一!」
「な、なんでもねぇよ! 腹の具合が悪いんだ! 治ったら学校行くから、今日は帰ってくれ!」
「小っちゃい醍醐か!? 小っちゃい醍醐がいるんだな!? そうなんだろ!」
「ち、小っちゃい醍醐だってえッ!? な、なんのことか分からねぇな……」
「俺に誤魔化す必要はない! いいからここを開けろ! もう何日ひきこもってんだ!」
「ひーちゃんには関係ねぇだろ! これは俺の問題だ! 頼むから帰ってくれ!」
「大丈夫だ、俺を信じろ! 小っちゃい醍醐問題なら俺も経験した! 何も心配することはない!」
「ッ……いや! ダメだ! お前を巻き込むわけにはいかねぇ!」
「出てこないなら、このドア叩き壊すまでだ!」
「やめろ! お前のために言ってんだ! 来るんじゃねぇ!」なんたることだ。まったく、どいつもこいつも。
くだらねぇ心配ばっかりして、結局自分が周りに心配かけてること、まるで分かっちゃいねえ。
ほっとけるかよ。見捨てられるかよ。
それができないから親友だっていうんじゃねぇかバッキャロウ!「バッキャロォォォオオオッ!!」
「ばか! 来んな! 俺の部屋には超でっけえ醍醐が―――」
第12章 【俺は逃げた。京一を見捨てて逃げた。仕方なかったんだ】
(終)
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